地域と力を合わせて箱罠猟

藤元敬介さんの事例

山口県周防大島町に住む藤本敬介さんは、地元のミカン畑に出没するイノシシを捕獲する専業猟師です。藤元さんが単身で年間300頭以上もの獲物を捕獲できる理由は、捕獲を捕獲するテクニックだけでなく、地元農家さんを巻き込んで被害対策のネットワークを築く“情報戦略”に、その秘密があります。

イノシシ被害に頭を悩ませるミカン農家


山口県周防大島町は冬でも温暖な気候であることから、別名「ミカンの島」と呼ばれるほどミカンの生産が盛んな地域です。しかし温暖で餌となる植物が多いことから、大島町は昔からイノシシの生息数が多く、特産品であるミカンもイノシシによる食害に悩まされてきました。

この島でイノシシ被害が酷くなるのは、山の斜面に複雑に入り組んだミカン畑の造成にも理由があります。このようなミカン畑は野生鳥獣の侵入を防止するネットや金網の管理が難しいため、イノシシはいたるところに抜け道を作り侵入してきます。

藤元さんも「まるでゲリラです」と語るように、どこから出没するのかわからない周防大島町のイノシシは、非常に厄介な相手なのです。

箱罠猟


ゲリライノシシに対抗するため、藤元さんは大型箱罠を利用しています。箱罠は撒き餌で獲物をおびき寄せることができるため、どこから出没するかわからない相手であっても、効率的に捕獲することができます。
 箱罠にはイノシシの好む米ぬかや、廃棄ミカンなどを使っています。おびき寄せられたイノシシが内部に立てかけた棒を蹴倒すと、扉が閉まって獲物を閉じ込める仕組みになっています。
 藤元さんがこの箱罠猟で工夫しているポイントは、底にコンパネ板を敷いている点です。箱罠に閉じ込められたイノシシは壁に突進を繰り返すため、徐々に変形してしまい箱罠を壊してしまいます。そこで表面がツルツルしているコンパネ板を敷くことで、イノシシの足を滑らせて助走をつけさせないように工夫しています。

農家さんとコミュニケーションを作る


箱罠で効率的にイノシシを捕獲している藤元さんですが、広大な農地をイノシシから守るのは、一人の力では限界があります。そこで藤元さんは罠をしかけるだけでなく、農家さんや土地の所有者に声をかけて協力者になってもらい、イノシシ対策の輪を拡げるようにしています。
 周防大島町に限らず、野生鳥獣被害に困っている農家さんは日本中にいます。しかし実をいうと、農家さん自身が野生鳥獣の捕獲を行うことは稀で、対策は行政が主導となって行っているのが現状です。
 そこで猟師である藤本さんは獲物を捕まえるだけでなく、被害に困っている農家さん自身がイノシシ被害防除に参加できるように、罠の購入を手配して設置したり、設置方法をレクチャーしたり、安全な止め刺しを教えるなどの活動を行っています。
 このように藤元さんは、周囲の人たちと協力関係を築くことで、単独で行うよりも効率的にイノシシを捕獲することができているのです。

ジビエの利活用


ミカンを食べて育ったイノシシは、身はプリプリと肉厚、脂にはほんのりと甘さがある絶品ジビエなのだそうです。しかし藤本さんは捕獲した獲物を一般に販売する気は無く、ほとんどを協力者へのお礼に回しているのだそうです。
 「美味しいジビエのおすそ分けを貰った人は、『また協力しよう』とモチベーションを上げてくれます」と藤元さんが語るように、ジビエの活用法は販売してお金に替えるだけではなく、野生鳥獣対策を継続的に行うためのコミュニティーを維持する資源としても利用できるのです。

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